近年、「スマホ認知症」という言葉が注目を集めています。これは、認知症と同様の症状がスマートフォンの多用によって若年層にも現れる現象を指します。脳神経外科医・奥村歩医師によれば、認知症を専門とするクリニックを訪れる患者の年齢層が急激に若年化しており、患者の30%が40代~50代、さらに10%が20代~30代を占めるといいます。認知症とは本来、高齢者に多い疾患とされていましたが、現代ではデジタル環境が脳に与える影響を無視できない状況に至っています。
情報社会がもたらす「脳の過労状態」
脳の働きに必要なバランス:入力と思考
脳を健康な状態に保つには、情報を取り入れること(入力)とその情報を深く考えたり処理すること(思考・出力)のバランスが重要です。しかし、スマートフォンやインターネットの普及により、このバランスが大きく崩れています。
現代では、次々と新しい情報が脳に流れ込み、これらを十分に咀嚼・整理する前にさらに新しい情報が追加されます。このような状態が続くと、脳は情報で「オーバーフロー」し、過労状態に陥ります。
情報過多が引き起こす症状
脳が情報過多になると、以下のような症状が現れることがあります:
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短期記憶の低下
一時的に覚えておくべき情報が処理されず、物忘れが頻発する。 -
感情コントロールの困難
ストレス耐性が低下し、些細なことで怒りやすくなる。 -
認知機能の低下
判断力や集中力が低下し、意思決定に時間がかかる。 -
うつ症状や自己喪失感
過剰な情報により疲労感が慢性化し、「自分らしさ」を失う感覚が生まれる。
脳疲労と「スマホ認知症」
「脳疲労」という概念
九州大学の藤野善久教授は、これらの現象を「脳疲労」という概念で説明しています。脳疲労とは、過剰な情報やストレスにさらされることで脳の神経回路が疲弊し、本来の機能を十分に発揮できなくなる状態を指します。この現象は、デジタルデバイスの使用時間が長い現代社会において、特に顕著になっています。
若年層における脳疲労の特徴
20代~30代の若年層で見られる脳疲労やスマホ認知症には、以下の要因が関係しています:
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学業や仕事による高いストレス負荷
受験や職場のプレッシャーが脳に大きな負担を与える。 -
スマホ依存による情報過多
SNSや動画、ニュースなど、多岐にわたる情報を処理する負荷が増加。 -
睡眠負債
スマホを使用することで就寝時間が遅れ、睡眠の質が低下する。 -
寒暖差や環境の変化による自律神経の乱れ
特に季節の変わり目は、脳や体へのストレスが高まる。
スマホ認知症を防ぐための具体策
1. 情報の断捨離(情報ダイエット)
スマホやインターネットに触れる時間を意識的に減らすことで、脳を休ませる時間を確保します。一日の中で「情報をシャットアウトする時間」を設けることが重要です。
- スマホの通知をオフにする。
- 就寝前1時間はスマホを使わず、リラックスできる環境を作る。
- 必要な情報以外は「検索しない」習慣をつける。
2. リラックス習慣を取り入れる
脳を休ませるためには、リラックスする時間を日常生活に組み込むことが有効です。
- 入浴:湯船に浸かることで血流を促進し、自律神経を整える。
- 深呼吸:ゆっくりとした呼吸を意識することで、脳をリセットする。
- 瞑想:短時間の瞑想を行い、脳内の情報を整理する。
3. 質の高い睡眠を確保する
睡眠は脳の回復に欠かせない重要な時間です。以下のポイントを押さえて睡眠環境を整えましょう。
- 就寝前のスマホ使用を避け、ブルーライトをカットする。
- 就寝時間を一定にし、体内時計を整える。
- リラックスできる環境(適度な室温や暗さ)を作る。
4. 脳を活性化する活動を行う
情報を単に取り入れるだけでなく、深く考えたり、アウトプットする機会を持つことが脳の健康に役立ちます。
- 読書:ただ読むだけでなく、内容を要約したり感想を書き出す。
- 対話:他者と意見交換をすることで、新しい視点を得られる。
- 創作活動:絵を描いたり、文章を書くなどの創造的な活動を行う。
スマホ認知症と向き合うために
スマホ認知症は、現代の情報社会がもたらした新しい健康問題と言えます。この問題を軽視せず、脳を健やかに保つための対策を講じることが重要です。
若年層を含むすべての世代が、日常生活でスマホの使用を見直し、脳に優しい習慣を取り入れることが必要です。
結論
脳の健康は、私たちの生活の質に直結します。スマホ認知症や脳疲労を防ぐためには、情報の受け取り方を意識的にコントロールし、脳をリフレッシュする習慣を取り入れることが求められます。まずは小さな一歩から、脳に優しい生活を始めてみてはいかがでしょうか。